< 2.星の座標と恒星時について >
天体を望遠鏡の視野に入れるためには見かけ上の天体位置が把握できなければなりません。天体の見える位置は同じ時刻で観測しても毎日少しずつ変化していくだけでなく、観測当日の時刻によっても刻々と変化していきます。これは、地球の自転と公転の影響によって天体の見かけ位置が変化するためです。そのため、人は星の集まりや明るい星を基準として、季節毎の星の位置を概ね把握できるように互いの位置関係をイメージしやすい形状になぞらえて、それらを”星座”として扱ってきました。また、私たち人類の祖先の人々は、星座を農業や祭事の時期を啓示するものとして重要なものとして扱ってもいましました。
そして、季節を示す歴と星座とは互いに関連するものとして、星の位置を詳細に観察することにより、作物の作付け時期や洪水の時期といったことを知ることができる重要なものと知ることができました。それは、近年の天文学のような星そのものを対象とする学問的な要求からなされているのとは若干異なり、より実利的な目的によるものでもあります。
更に星座は歴史上の偉人や神話の世界からそれぞれの名前が付けられており、その星座の命名にまつわる物語が付けられ神格化されていたりもします。当然のことながら星座の形態や名称は国や地域によって異なりますが、その命名の趣旨において東西の星座には共通するこれらの要求が必ず込められています。
ところで、日本には古くから固有に命名された星座名というものがあります。ですが、今日星座を語ろうとするときには西洋で命名された星座を指すことが多いのも事実です。というのは今日の天文学が西洋的な科学的思考に沿って研究され、それと同時に望遠鏡や様々な観測機器などの制御理論もその科学的思考に沿って構築されてきたからなのでしょう。つまり、西洋的な学問に対する姿勢は星座という大まかにものから、より詳細でより正確な情報と実利的な要求を満たすので、暦や星座についてもそのような傾向を追随してしまったためなのかもしれません。いずれにせも、その様な学問的な意図がないとしても、望遠鏡の視野内に星を入れて幾ばくかの倍率を掛けて天体を観測しようとすれば、そのときの視野が単に狭くなるだけでなく天体の動きはその倍率を掛けたような速度で望遠鏡の視野の中を動くということに遭遇します。このような状況において、西洋の学問は星を望遠鏡の視野に入れる方法とか、その星を視野に入れ続けるというような、様々な要求に対する理論的な答えを与えてくれるという点で優れています。
近年の天文愛好家の一部は天体の写真を撮ることが一つの目的として望遠鏡や赤道儀を操作します。この様な状況では星の位置をより正確に把握できなくてはならないのはもちろんのこと、それを追尾する精度の高い機器が必要とされることから、撮像対象となる天体の位置情報も星座という括りではもはや用をなさないものになっています。
そのような天文愛好家や研究者の要求によって星の正確な位置を知るための手段が必要になり、星の位置関係をより正確に表しているものして”星図表”というものが必要になります。これは肉眼で見た場合の位置関係であって、正確な位置関係ではあっても位置そのものを特定する絶対的な値というものを読みとれないのは衆知の通りです。
望遠鏡の電子化と相まって星を機械制御によって導入し、それを追尾しようとするような望遠鏡においては、印刷された星図表では対象天体を望遠鏡の視野に自動導入することは全く不可能になっており、そのために必要な情報は星図表にある星の位置関係を表す座標情報そのものになってきています。天体の位置情報を表すには何らかの原点と座標設定が必要なことは同然で、そのための座標系には様々なものが考えられています。本項では望遠鏡の制御に必要な事柄について記述しようと思います。
天体の自動導入を行う場合に必要な情報の概要をまとめると以下のようなものが考えられます。
1.星の位置座標
天体の位置は天球上の固定点を基準に決められなくてはなりません。天体の位置座標である赤経と赤緯について記述します
2.観測地の座標
観測地の緯度と経度は観測地で見える天体に大きな影響を与える。天体の位置と観測地の地理座標との関係を考えます
3.望遠鏡視野の位置座標
望遠鏡視野の位置座標は天体の追尾だけでなく、次回の起動時の座標も与えます。視野座標の制御と計算法について述べます。
< 2.1 星の位置座標 >
< 2.1.1 赤道と黄道について >
地球を基準にして天体が見える空全体を仮想的な球体と見なしたとき、その球体を『天球』と呼んでいます。この天球と地球の自転軸の延長線が交わる点を『天の極』と呼び、この自転軸に直角で、地球の中心を通り天球に投影した仮想的な大円を、『天の赤道』と呼びます。
また、地球の北半球側の極を『天の北極』と呼び、南半球側の極を『天の南極』と呼んでいます。これら天球上の極や赤道はあくまでも地球を基準に定めたものなので、星や太陽等の絶対位置とは無関係です。
そして、天球上に見える天体の位置関係は固定ですから、この位置関係を様々な神と英雄や想像上の生物などに見立てたものが『星座』といわれるものです。天体は承知の通りそれぞれの本来の位置関係は互いの距離によっても異なるものですから、天球に映る天体というのは要はプラネタリウムで人工的に投影された星像のようなものであると考えられます。
ですから、星の位置を指し示すものはこの天球上での不動になる相対的な位置関係を表すものでよいのではないかことになります。その様な考えで決められた座標系が『赤道座標』です。
この赤道座標は天の極と赤道を基準として決められる座標で、その原点は『春分点』と定めて、極方向の座標を『赤緯:Declination』といい、赤道面方向の座標を『赤経:Right Ascention』として表しています。
太陽の動きは地球から見ると一年をかけて天球上の星座の間をぬって一周するように見えています。これは、地球が太陽の周りを回っている(公転している)ことに起因するものですが、地球上からはあくまで太陽が移動しているように見えるのですから、この太陽の位置を天球上に反映しているものが太陽の通り道であるところの『黄道』なのです。
天球において黄道によって生成される面を『黄道面』といい、赤道によって生成される面を『赤道面』と呼んでいますが、この黄道面と赤道面とは一致せず、特定な傾斜角(黄道傾斜角)を持っています。
それら黄道面と赤道面とが交錯する点のうち、太陽が赤道に対して天の南極側から天の北極側に抜ける点のことを『春分点』と呼んでおり、逆に天の北極側から天の南極側に抜ける点を『秋分点』と呼んでいます。
暦の上では春分の日とか秋分の日といわれている日は、この『春分点』と『秋分点』を通過する日ということになり、一般には昼と夜とが等しい長さになる日というようにいわれています。
< 2.1.2 赤道座標-赤経と赤緯につい >
星の座標は時々刻々と位置を変えていることは既に述べましました。同じ時刻に同じ天体を観測しようとしても、昨日そこにあった天体は今日には既に望遠鏡の視野の外ということになるのです。
それでは、昨日と同じ天体を望遠鏡の視野に入れ直すにはどのようにしたらよいのでしょうか。
その問題を考える前に先ず星の位置を特定する座標系について詳しくみてみましょう。目に映る天体の見かけ位置は地球の自転や公転の影響で時々刻々と変化していますが、天球上にある星の位置関係は、月や惑星などの一部のものを除いて概ね固定のものと考えられます。そこで、これら天体の位置関係を表すための座標系と原点の設定が必要となるわけです。
天体の観測は地球上から天球を見ることが前提ですから、天体の座標は地球を中心に考えた方が良いことは間違いないので、天体の位置は赤道座標系を用いて表されます。
恒星の座標系は地球の自転を基準とした赤道座標が用いられ、春分点を原点0(ゼロ)とする『赤経(せきけい: α又はRA:Right Ascension)』と、赤道面を基点とした『赤緯(せきい: δ又はDEC:Declination)』と呼ばれる2つの数値で表されます。
赤道座標は、星の絶対位置をあらわすために用いられている座標系なのですが、地球の自転を基準とした座標系でもあり、星の日周運動による星の見かけ位置を表すことに向いています。
地球の自転軸を北に伸ばして天球と交わる点を「天の北極」、南に伸ばして天球と交わる点を「天の南極」と定義しており、赤緯は、赤道面を基点(0°)として南(-)と北(+)にそれぞれ90°の数値で表すから、天の北極は+90°、天の南極は -90°となるわけです。
赤経は春分点(太陽が天の赤道を南側から北側へ横切る点)を基点(0゚=0時)として東回りにはかり、一周を24時間(1時=15°、1分=15′、1秒=15″)とした数値(時角)で表します。
<天体の座標表現>
赤経(α):春分点を起点に東回りに1周を24hとして時間(時h ,分m ,秒s)で表す
赤緯(δ):天の赤道を0°、天の北極を90°、天の南極を-90°とし、角度( 度 °,分 ")で表す
地球上の経度、緯度も同様な考え方で座標が定義されていますが、経度に関しては時間ではなく一周を度数即ち360°(グリニッジを基準に東西180°ずつ)で表しているところが若干異なります。
< 2.2 観測地の地理座標 >
< 2.2.1 望遠鏡を設置する地理上の座標(緯度、経度) >
星の見かけ位置は、望遠鏡を設置する場所の地理上の座標(緯度、経度)によっても異なります。というのも、地球の自転を天球側から見てみると特定の観測地は時間と共に位置を変えながら回転している訳ですから、同じ経度における緯度の違いは同じ時刻であれば、実際に見える天体の高度位置や種別が異なるものであっても、実際に見えている天体の赤経は全て同じと言うことになる訳です。逆に同じ緯度における経度の違いは、地形条件を除けば見える天体の見かけ高さ位置関係は同じであって、同じ天体が同じような見かけ位置で見える時刻の違いとなって現れます。
以上のような関係から観測点の緯度と経度の把握ということが天体観測おいてはいかに大切なことかお分かり頂けると思います。このような違いは、自宅や天文台などにおいて手動で天体を導入し追尾しようとする場合には、天体の導入、追尾といった一連の操作を人が目で見て行うものであるかぎり、見かけの位置というのはそれ程大きな問題とはならないと感じるのかもしれません。
しかし、観測点を移動して機械的な自動導入を行うようなシステムにおいては、望遠鏡を設置する場所の地理座標(緯度、経度)によって星空の状況が一変してしまうこともあり、観測に至る一連の操作を人手によらず望遠鏡自体が自動で実行するためには観測点の座標が特に重要な情報なのです。
観測点を移動するようなシステムでは、GPSがあると地理座標が簡単に把握できるので便利です。しかし、GPSによる地理座標(緯度、経度)の把握は、移動観測には必ずしも必須であるとはいえないかもしれません。というのも、特定なユーザに関してのみ考えた場合、概ね観測者は 緯度、経度が大幅に変わるような場所には頻繁に行かないことが多いからです。たとえ変わったとしても望遠鏡の視野内に眼視で導入した天体の座標が分かっていれば以後の天体の自動導入は可能なのです。
むしろ赤道儀による天体の観測や精細な写真撮影には正確な極軸あわせをすることの方がより重要なことであるといわれています。
また、天体の自動導入処理のみについてならば、正確な極軸あわせが行われており、観測の初めに既知の基準天体を望遠鏡の視野に導入できるのであれば、緯度・経度といった情報は特に必要はないのです。
とはいうものの、自動導入化された赤道儀制御システムの汎用性を考え、なおかつ観測点の移動を考慮した時のセッティングの容易さを追求すれば、基準天体を望遠鏡の視野に導入するという動作をも自動化する完全自動な赤道儀制御システムが必要となり、やはり地理座標(緯度、経度)の把握というのは必須なものなのです。
< 2.2.2 地方時と星の座標 >
赤道座標における赤経は春分点(太陽が天の赤道を南側から北側へ横切る点)を基点(0゚=0時)として東回りに計り一周を1時=15゚、1分=15'、1秒=15"として24時間までの数値で表し、緯度は赤道を基準にして天の北極方向に+90゜、天の南極方向に-90゜の角度で表記すことは既に述べましました。
赤経を24時表記で表すことは、地球上の天体観測に関しては時刻を基準に考えた方が分かりやすいためでしょうが、赤経と地理的な経度は単位系が異なるためにそれぞれの座標を互いの座標系に変換する場合には若干注意が必要で、”角度と時”の双方のデータ変換処理を行わなくてはなりません。
特にコンピュータの内部計算においては時換算データよりも角度換算データの方が処理を行い易いのです。というのは地方時の計算や星の高度計算において三角関数を多用することになるわけですが、これら演算ライブラリの多くは角度かラジアンの値を使用して演算しているからです。いずれにしてもどのような値を基準にしてシステムを構築するかは、システム設計者の考え次第ということになります。
さて、天体の座標は分かったけれど、実際に特定な時刻に見える星空はどのようになるのでしょうか。
星の位置は時刻と共に東から西に変化しています。このこと自体は地球の自転によるものであることは皆が承知しています。ところが、日時と時刻を指定した場合に星の位置を正確に答えられる人はほぼ皆無です。もちろん、天文を趣味にしている人の内かなりの人が星座の位置等から凡その位置を言い当てることができるのかもしれません。しかし、ここで問題としていることは、いわば目を瞑ったままの状態で望遠鏡を操作して要求する天体をその視野内に入れることができるかどうかにということにも等しいのです。コンピュータ制御の望遠鏡による天体の導入ということの内部処理はそのようなものであるので、望遠鏡を制御するためにはより正確で明確な情報が必要なのだということはおわかり頂けると思います。
<観測点の視恒星時の計算式>
観測点の視恒星時 = グリニッジ子午線の恒星時 + 9時間
Θ = Θ0 + λ + ti+ 補正値
Θ : 観測点の視恒星時
Θ0: 世界時0hの春分点の方向
λ : 観測点の経度
ti : 地方時間-経度(オフ
天体導入の自動化には、観測点の視恒星時の計算は欠かせないし、この視恒星時の計算には観測点の経度と地方時の情報は必須です。それは、視恒星時が当該地方時における観測点の子午線を通過する星の座標を表しているということにあります。
つまり、星の座標位置関係は一定でも、実際に星の見える位置というのは地球の自転の影響により時間とともに変化するので、望遠鏡で実際に星を観測しようとする時のその地方時における星空が知りたいのです。その様な訳で時間の基準が必要となり、それはグリニッジ子午線を基準とする『世界時(UT1)』として定められてします。日本はグリニッジよりも東の経度なので、この時間よりも9時間進んだ地方時として求められます。
観測点の視恒星時と観測点の経度及び地方時などの関係は以下に示すとおりです。
観測点の視恒星時はグリニッジにおける世界時0hの視恒星時からの時間変位と観測点の経度で表されていることがわかります。要はグリニッジの世界時0hの視恒星時が求められれば観測点の経度は定数と考えられるので、後は観測点の地方時が分かれば地方恒星時が計算できることになります。
世界時0hの視恒星時というのはグリニッジ0hの視恒星時ということになるわけで、要はその日の恒星時の原点となっており、このグリニッジ0hの視恒星時からの時間経過と観測点の経度による恒星時の変位を加算したものが、観測点の視恒星時になるわけです。
前記の関係をより分かりやすくしたものが下図として図示されています。
要するに、グリニッジにおける0hの視恒星時が計算できれば、観測点の視恒星時は観測点の経度を時間に変換した値と経過時間だけの補正を加えるように計算すればよいことになります。
自動導入システムにおいては、観測点の視恒星時の計算誤差はひいては望遠鏡の導入誤差を生むことになり、正確な星の導入は不可能になるのです。
< 2.2.3 視恒星時と星の赤経座標 >
Θ : 観測点の視恒星時
Θ0: 世界時0hの春分点の方向
γ : 観測点の経度の時間換算値
というわけで、観測点の経度と観測時刻の値を知ることは非常に重要なこととお分かり頂けたと思います。固定点での観測については経度・緯度は容易に設定が可能でしょうが、観測地を移動する場合などはその地点の緯度・経度と時刻をできる限り正確に知ることは難しいことなのですが、これらの情報は自動導入システムにおいては必須な項目なのです。
このような場合にGPSを使用することが出来るならば、正確な時刻あわせと座標取得が可能になるので便利であると思います。最近ではUSB接続の非常に小型なGPS装置もありますから、パソコンを使用することが前提ならばこれらを利用することが可能になります。また、X-Beeの様な小型のGPSモジュールもありますから今後のシステムではGPSを搭載することは必然なのかもしれません。
ところで、時刻を取得するということのみならば問題は非常に簡単なことになります。というのもパソコンにはシステムタイムというものがあり、このシステムタイムの時刻を正確に設定(ただし秒単位ですが・)しておけば、地方時はこのシステムタイムを使用すれば通常の使用には支障をきたすことはほぼないと思われるからです。同時に観測点の緯度・経度の値は予め地図や役所に問い合わせなどを行うことにより得ることができ、この値を上位パソコン上のアプリに設定しておけば良いのです。観測点の座標が大きく変わる場合でも予め緯度・経度の座標を調べておけば済むことなので、それ程大きな問題になることはないのかもしれません。LX200版ではその仕様に従って、最大4地点の観測点座標情報が保持できるようになってもいるので、この機能を利用することもできます。
また、パソコンを使用しないシステムでは、コントローラ内部に地方時を知る手段があればパソコンの場合と同様の処理が可能です。そのため、概ねシステムタイムを設定・更新する機能は持っているものものなので、自動導入を行おうとする場合の天体座標データがコントローラ内又は制御ボードのいずれかに保持されていなければならないと言うのは同然のことなのです。
MeadeのLX200やセレストロン等の望遠鏡がこのような思想で作られた望遠鏡システムなのです。これらのシステムでは、星の座標情報等のデータは機種によって異なりますが、ハンドコントローラかあるいは赤道儀内の制御ボードのいずれかに必ず保持されています。
< 2.3 望遠鏡視野の位置座標 >
< 2.3.1 子午線基準の座標系について >
観測点の視恒星時を表す座標系は赤道座標系なので、その赤道座標を地球の自転に合わせて見かけ上の定点座標の時角を計算しているにすぎありません。言うまでもなく地球上の定点は便宜上、子午線と赤道となり、天球上の定点は春分点と黄道いうことになる訳です。このとき、星の赤経座標値は天球上の春分点からの時角として表され、赤緯座標値は赤道からの極方向への変位角ということでした。
赤道儀の制御においては、極軸の回転はいわば自転軸に平行ですから、緯度方向の座標は地球が回転した場合、あるいは望遠鏡の極軸が回転した場合でも変化はありません。
理想的な赤道儀の制御は天体の導入を除けば、追尾そのものは赤経軸の回転のみで行われのですから、
地球を基準としてこの追尾を考えると、恒星時の基準点である子午線を原点に考えなくてはならないことは至極当然のことに思われます。
地方恒星時θはグリニッジにおける恒星時に対して、観測点の経度分の変位として計算できます。
<地方恒星時θ の計算式>
地方恒星時θ = θg(グリニッジにおける恒星時) + λ(観測点東経の時間算)
また、天体X(Ra,Dec)の赤経Raは春分点からの時角ですから、地方恒星時と天体Xとの変位をθRa と定義するとこれは観測点の子午線からの変位座標と考えることができます。
この関係は、上図に示されるように、天体X の移動変位として把握できます。
<地方恒星時θ と天体の座標値の関係>
地方恒星時TLoc =θRa(観測点子午線からの変位時角) + Ra(天体の赤経)---①
この式から、 天体Xを追尾したときのθRa の値は、
θRa(観測点子午線からの変位時角)= 地方恒星時TLoc - Ra(天体の赤経)---②
この値は、天体を望遠鏡の視野に導入したときの望遠鏡視野の初期赤経座標として定義することにします。当然ながら赤緯は天体XのDecの値です。
以上の地方恒星時TLoc、観測点の子午線からの変位時角 θRa 及び 天体の赤経Raの関係を簡略化した図が以下に示されています。
θRa(観測点の子午線からの変位時角)は地球の自転と共に増加していくことになりますが、増加分は基本的に地方恒星時におけるものと同じであるはずです。
ここで、θRa(観測点の子午線からの変位時角)は望遠鏡の視野座標であると定義しましたから、この座標更新をステッピングモータのパルスカウントとリンクして制御し、θRa を更新します。
すると、望遠鏡の視野は特定なパルス出力した後に先ほどθRaを計算した式 ① の関係から、逆に望遠鏡の視野の赤経Ra’を計算することができます。
<天体の追尾における地方恒星時と変位の関係>
Ra’(望遠鏡視野の赤経)=地方恒星時TLoc - θRa(子午線からの変位時角)---③
ここで、注意が必要なことは、望遠鏡の追尾が正常に行われていれば、計算された望遠鏡視野の赤経Ra’と天体の赤経Raとは等しくならなければなりません。
Ra’(望遠鏡視野の赤経) = Ra(追尾天体の赤経) ----正常追尾の時
更に、この両者が等しくない場合を考えると、この状況は明らかに天体が望遠鏡の視野中心からずれていることを表しており、Ra’(望遠鏡視野の赤経)がRa(追尾天体の赤経)よりも大きい場合には追尾の過剰、小さい場合には追尾遅れであることを示しています。
<天体の追尾における望遠鏡と天体の座標関係>
Ra’(望遠鏡視野の赤経) > Ra(追尾天体の赤経)---追尾パルスが速い、多い
Ra’(望遠鏡視野の赤経) = Ra(追尾天体の赤経)---正常な追尾パルス制御状態
Ra’(望遠鏡視野の赤経) < Ra(追尾天体の赤経)---追尾パルスが遅い、少ない
これらの関係を上手に扱えば望遠鏡の追尾におけるピリオディクモーションの問題や自動追尾に応用できそうです。
厳密に言うと、ピリオディクモーションや自動追尾における星像のズレはギアや望遠鏡のハード的な主要因であることが多いので、このようなシステム的なアプローチはそれ程の効果が見込めないのかもしれません。また、マイクロコントローラを作動させるシステムクロック(水晶発振子)の発振精度も大きな問題となることも事実です。しかしながら、割り込みそのものや赤道儀制御システム固有の問題は回避できる可能性は高いのです。
ここで注目しておきたいことは、Ra’(望遠鏡視野の赤経)がステッピングモータのパルスカウントから計算されていることと、地方時がシステムタイムで計算されていることです。
この2つの値が同じ天体の赤経を表そうとしていることは明確ですが、算出の基本になっている時間の基準が異なるということは制御上特に重要なのことなのです。
また、最終的な両者の間の誤差をより詳細なものとするためには時間の更新単位が同じである方が良いことも事実です。
この点で、現状のEJAN赤道儀制御システムにおける時間更新基準は若干の問題があります。というのは、地方恒星時の更新に必要な地方時の時間スケールがステッピングモータよりも1桁大きいので、互いの値の精度が若干問題となっているのです。
<天体の追尾における地方恒星時と望遠起用視野の時間単位>
Ra’(望遠鏡視野の赤経) : ステッピングモータの1パルスカウント当たりの時間
Tloc(地方恒星時) : システムタイムの割り込み時間 現状は1秒間隔
ステッピングモータのパルス数は稼働する赤道儀によって異なりますから必ずしも一定の値とはなりません。しかし、概ね1秒当たりのパルス回数は2パルス以上であることから、システムタイムの更新はできることならば0.1秒以下であることが望ましいのではないかと思われます。
とはいうものの、現在のEJAN赤道儀制御システムはシステムタイムに8ビットカウンタを使用しており、0.1秒毎の割り込み処理はシステム処理的にやや厳しいと言わなくてはなりません。
要するに割り込みカウンタの処理ロジックを工夫してあまり処理時間のかからないシステムタイム処理にしなければならないと思われます。同時に、システムを構築するハード、特にマイクロコントローラの上位(ATmega128やATmaga256等)を使用して各軸のステッピングモータ処理を個別割り込みに分離して制御させるようにしなければならないとも考えています。
ステッピングモータのバルス間隔は1日当たりの総秒数を総ギア比で割ったものとして計算します。
<天体の追尾におけるステップ割り込みの関係式>
割り込み時間α=一日の総秒数(Ttime)/総減速ギア数(Tgear)
ここで1日当たりの総秒数は、
恒星時運転時(SIDEREAL_DAY)は86164.091秒 、
太陽時(SOLAR_DAY)は86400.000秒、
月時(LUNA_DAY)は89428.330秒
として扱われるので同一システムにおいてさえ割り込み時間は運転速度によっても異なることに注意が必要です。
更に言えば、追尾総時間を総減速ギア比で割るわけですから、この割り込み時間は赤道儀制御システムが稼働するシステムの総減速ギア比によっても異なってくるわけです。
いずれにしても、追尾秒数はおよそ86400秒ほどなので、総減速ギア比はこの値の2倍以上の値(理想的には10倍以上)となるでしょうから、もしも追尾精度を問題とするならば、システムタイムもこの割り込み時間と同等かそれ以上の時間精度で処理を行う必要があるものと考えます。
このように、システムクロックによるシステムタイムがたとえ正確だとしても、割り込み時間は厳密には整数になるわけではありませんから、この計算上の誤差はステッピングモータのパルス出力とともに積算されていくことは必然です。つまり、それが新たな追尾誤差として現れることは当然の結果なのですから、本項の追尾処理の方法はあながち無駄な処理とはいえないと考えています。
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